「太陽光の営業って、今から入っても遅くないですか」
この質問を、私はここ数年で何十回も受けています。
はじめまして、三宅遼太と申します。
住宅設備メーカーの営業を4年、その後、人材紹介会社で建設・住宅設備・エネルギー業界の担当キャリアアドバイザーを8年やってきました。
2年前に独立し、いまは転職メディアへの寄稿を中心に書いています。
面談してきた求職者は通算で2,000人を超えます。
企業側の採用担当にも、数百社単位でヒアリングをしてきました。
つまり私は、求人票に書かれている条件と、入社した人が半年後に何を言うかの両方を見てきた立場です。
その立場から正直に書きます。
住宅用太陽光の営業職は、「市場が消えるから危険」ではありません。
ただし「誰がやっても稼げる仕事」でもありません。
この記事では、公的なデータで市場の現在地を確認したうえで、それでもこの仕事を勧められない人の条件、そして求人票のどこを見れば会社を見分けられるかまで書きます。
判断材料を渡すのが目的で、応募を煽るつもりも、やめさせるつもりもありません。
目次
「今さら太陽光なのか」という不安の正体
まず、この不安がどこから来ているのかを分解します。
転職を考えている人が口にする懸念は、だいたい次の3つに集約されます。
- 新築住宅が減っているのだから、売る先も減るのではないか
- 買取価格が下がり続けていて、提案の旨味がなくなっているのではないか
- 訪問販売の悪いイメージが強く、家族に説明しづらい
このうち、1つ目の「新築が減る」という読み筋そのものは間違っていません。
人口が減れば着工数は減ります。
実際、企業口コミサイトには「人口が減っているのでいずれ売れなくなる商材」という趣旨の投稿もあります。
ただ、この読み筋には一つ抜けている視点があります。
住宅用太陽光の営業が向き合う相手は、新築の家だけではないということです。
すでに家が建っていて、すでに太陽光を載せている世帯。
ここが今、いちばん動いている層です。
その理由を、順にデータで見ていきます。
数字で見る、住宅用太陽光の現在地
国はいま、買取価格を「上げて」いる
意外に思われるかもしれませんが、住宅用太陽光の買取価格は直近で引き上げられています。
資源エネルギー庁が公表している買取価格・期間等|FIT・FIP制度のページ(2026年4月現在の内容を反映)によると、住宅用に当たる10kW未満の調達価格は次のようになっています。
| 対象期間 | 調達価格(10kW未満) |
|---|---|
| 2025年度(4月〜9月) | 15円/kWh |
| 2025年度(10月〜3月)・2026年度 | 24円/kWh(1〜4年目)/8.3円/kWh(5〜10年目) |
調達期間は10年間です。
最初の4年間を高く設定し、後半を低く抑える階段型の価格設計になっています。
これは「初期投資支援スキーム」と呼ばれるもので、エネ庁の資料には、国民負担に中立な形で投資回収の早期化を図る価格設定だと説明されています。
営業の現場から見ると、この意味は明快です。
「回収までの年数」を短く提示できるようになった、ということです。
提案の説得力が下がるどころか、直近では上がる方向に制度が動いています。
なお、この階段型の価格は2026年度までの適用とされており、2027年度以降の住宅用の扱いは今後の審議で決まります。
数年先まで同じ条件が続く前提で考えるのは危険です。
導入目標に対して、まだ余地が残っている
もう一つ、市場の天井がどこにあるかという話です。
エネ庁の第110回調達価格等算定委員会に提出された資料によると、太陽光全体のエネルギーミックス水準が10,350万kWから11,760万kWとされているのに対し、現時点の導入量は7,680万kWです。
容量ベースで、まだ2,700万kWから4,000万kW分の開きがあります。
「もう入れるところに入れ終わった」という状態ではありません。
同じ資料には、住宅用太陽光のシステム費用が2025年設置分の平均で28.9万円/kWであり、2023年度以降はやや増加傾向にあるとも書かれています。
設備が安くなり続けて価格競争に沈んでいく、という単純な図式でもないわけです。
制度が需要をつくる側に回っている
2025年4月は、住宅の省エネ関連でいくつかの制度が同時に動いた月でした。
一つは、国土交通省が進めた改正建築物省エネ法による、全ての新築住宅の省エネ基準適合義務化です。
ただしこれは断熱と一次エネルギー消費量の基準であって、太陽光の設置を直接義務づけるものではありません。
ここを混同して説明する記事が多いので、応募前に理解しておいたほうがいいところです。
もう一つが、東京都の制度です。
東京都の広報ページ太陽光パネルの設置を義務付ける制度が2025年4月から始まりますによれば、年間の都内供給延床面積が2万平方メートル以上のハウスメーカー等が新築する、延床面積2,000平方メートル未満の建物が対象です。
既存の建物は対象外とされています。
同ページには都の試算も載っています。
新築戸建に4kWのパネルを設置した場合、光熱費の削減は年間約92,400円。
設置費用117万円に対して都の補助が40万円で、自己負担77万円を約8年で回収できる計算です(東京都区部・2人以上世帯を想定した2024年8月時点の試算)。
制度が需要を押し出している局面だ、ということはこの一例からも読み取れます。
市場の中身が「新築」から「既築」に移っている
ここが、この記事でいちばん伝えたい部分です。
卒FITという既存顧客の山
FITの買取期間は10年です。
2009年の余剰電力買取制度から数えると、買取期間を終えた世帯はすでに膨大な数になっています。
エネ庁のFIT事業計画認定情報の公表値では、住宅用太陽光(10kW未満)の導入量は、2026年3月末時点で新規認定分が2,610,053件、旧制度からの移行認定分が1,196,298件です。
このうち移行認定分は、制度上すでに買取期間を終えている、あるいは終えつつある世帯にあたります。
買取価格が下がった世帯にとって、売電より自家消費のほうが得になります。
そこで蓄電池やエコキュートの出番が来る。
つまり卒FIT世帯は、放っておいても提案の必要が生まれる顧客リストです。
蓄電池はこれから積み上がる商材
蓄電池の見通しも公的な場で示されています。
経済産業省の分散型エネルギー推進戦略ワーキンググループに提出された三菱総合研究所の資料(2026年3月)では、新築住宅への蓄電システム導入割合が2020年の24%から、2030年に43%、2040年に60%まで上がると想定されています。
家庭用蓄電システムのストックは、2040年時点で約55GWhという推計です。
さらに同資料は、蓄電池の寿命を10年から15年程度としています。
一度売って終わりではなく、10年後に交換需要が戻ってくる商材だということです。
営業職としてこれをどう読むか。
売る対象と売り方が変わるのであって、売る仕事そのものが消えるわけではない、という読み方が妥当だと私は考えています。
これから営業が向き合う顧客層を整理すると、次の3つになります。
| 顧客層 | 状態 | 主な提案内容 |
|---|---|---|
| 新築世帯 | 制度と補助金が後押し | 太陽光+蓄電池のセット導入 |
| 既築・太陽光未設置 | 電気代高騰が動機になる | 後付けの太陽光、給湯器の入れ替え |
| 卒FIT世帯 | 売電単価が下がった状態 | 蓄電池の追加、自家消費への切り替え |
求人票を読むときは、その会社がこの3層のどこを主戦場にしているかを見てください。
これが仕事のきつさを大きく左右します。
それでも、誰にでも勧められる仕事ではない
ここまで市場の話をしてきましたが、私は「だから応募すべきだ」とは書きません。
現場で聞いてきた限り、この仕事が合わない人は確かにいます。
「きつい」と言われる理由として、複数の情報源で共通して挙がるのは次のような点です。
- インセンティブ比率が高く、成果が出ない月は収入が落ち込む
- 意思決定者が家にいる土日が主戦場になり、休日が世間とずれる
- 制度や補助金が変わるたび、提案内容を自分で更新し続ける必要がある
- 高額商材のため、契約後のクレームやアフター対応の重みが大きい
このうち、私が面談で最も離職理由として聞いてきたのは1つ目です。
基本給が低く設計されている会社ほど、調子の悪い月に生活が揺れます。
業界イメージの問題を直視しておく
もう一点、避けて通れない話があります。
国民生活センターが2025年6月に公表した太陽光発電システムの点検商法が急増!によると、点検商法に関する相談件数は2017年度の57件から2024年度は613件に増えています。
2023年度、2024年度はいずれも前年度の約2倍という伸びです。
「点検が義務化された」と告げて不要な工事を勧める手口が典型例として挙げられています。
点検の義務は制度の利用状況や出力によって異なるもので、一律に義務化されているわけではありません。
これは業界にとって不都合な数字ですが、転職を考えるなら知っておくべきだと思います。
同時に、まっとうに売る会社と営業担当の価値が相対的に上がっている、という読み方もできます。
玄関先で警戒される前提で仕事を組み立てられるかどうかが、この仕事の分岐点です。
求人票のどこを見れば会社を見分けられるか
では、どうやって会社を選ぶか。
私が求職者に必ず確認してもらっていた項目を3つ挙げます。
分業しているかどうか
アポイント取得から契約まで一人で背負う体制なのか、役割が分かれているのかで、負荷はまるで違います。
分業されている会社は、一人あたりの訪問件数が抑えられている傾向があります。
給与の内訳を分解する
「月給28万円〜」という表記だけを見て判断してはいけません。
確認すべきは次の3点です。
- 基本給がいくらで、固定残業手当がいくら含まれているか
- 固定残業時間が何時間に設定されているか
- インセンティブの支給ルールが明文化されているか
固定残業時間が長めに設定されていれば、それだけの残業が想定されている可能性があります。
一方で、インセンティブの計算式が明確な会社は、成果と収入の関係が読みやすいという利点があります。
訪問先が既存顧客か、新規開拓か
先ほどの3層の話がここに効いてきます。
既存顧客へのフォローが中心なら、少なくとも「初対面でドアを閉められ続ける」タイプの消耗は起きにくくなります。
実例で見ると分かりやすいので、一つ挙げます。
東京・勝どきに本社を置くエスコシステムズは、ENEOSサンエナジーの販売代理店として省エネ設備を扱う会社です。
求人票を見ると、対象は自社ですでに設備を導入した約1万1千世帯の既存顧客で、稼働確認とヒアリングを行うアプローチ担当と、提案・契約を担う契約担当に分かれています。
1日の訪問件数は3〜4件程度と記載されています。
一方で、予定年収は500万円から700万円と幅があり、月給には67,000円から80,000円の固定残業手当(固定残業時間42時間)が含まれています。
このように、良い条件と確認が必要な条件は同じ求人票の中に併記されているのが普通です。
詳しくはエスコシステムズが公開している求人の詳細ページで、実際の記載を自分の目で確かめてください。
大事なのは、どこか一社が良いか悪いかではありません。
求人票を「分業」「給与の内訳」「訪問先」の3点で分解する癖をつけることです。
この癖がつくと、面接で何を聞けばいいかも自然に決まります。
まとめ
最後に、この記事の要点を整理します。
- 住宅用太陽光の買取価格は直近で引き上げられており、制度は導入を後押しする側に動いている
- 導入量はエネルギーミックスの目標水準にまだ届いておらず、容量ベースで余地が残っている
- 市場の中心は新築から、既築と卒FIT世帯へ移りつつあり、蓄電池の需要は2040年に向けて積み上がる見通し
- 一方で収入の変動、土日中心の稼働、業界イメージという現実的な負荷は確実にある
- 会社選びは「分業体制」「給与の内訳」「訪問先が既存か新規か」の3点で見分ける
「今から転職して市場はあるのか」という問いへの私の答えは、あります、です。
ただし、市場があることと、あなたがその仕事で消耗せずに続けられることは別の話です。
数字を確認したうえで、次は求人票を3つの視点で読んでみてください。
そこまでやってから決めれば、少なくとも「知らなかった」という理由で後悔することはなくなります。



