はじめまして。元・大手電機メーカーの生産技術部門で、電子部品の接合・封止・放熱工程を担当していた、田中浩二と申します。退職後は製造業向けのディスペンサー選定・導入コンサルタントとして独立し、現在は中小の製造業を中心に、液材塗布ラインの設計から機器の選定・立ち上げサポートまで幅広くご支援しています。

ディスペンサー選定のご相談でよく耳にするのが、「高粘度液だからスクリュー方式にすればいい」という思い込みです。確かに粘度は重要な指標ですが、それだけで決めると後になって「吐出量がばらつく」「ノズルが詰まる」「混合比がズレる」といったトラブルに見舞われることがあります。高粘度液には、粘度以外にも選定を左右するさまざまな「材料特性」があるからです。

本記事では、製造現場でよく使われる高粘度液を材料別に分類し、それぞれの特性に合ったディスペンサーの選び方をわかりやすく解説します。「どの方式を選べばいいかわからない」「現場で使っている液材に本当に合っているのか不安」という方に、現場目線でお伝えしていきます。

粘度だけでは判断できない理由

高粘度液が多様な理由

一口に「高粘度液(10,000 mPa・s以上)」といっても、はちみつのようにネットリした液体から、グリースのように流動しにくいペースト状のもの、さらには2種類の液を混ぜて初めて固まるエポキシ系接着剤まで、その種類は非常に多岐にわたります。

粘度が同じ50,000 mPa・sであっても、フィラー(充填材)が入っているかどうか、温度によって粘度が大きく変わるかどうか、1液か2液かによって、必要なディスペンサーの機能はまったく異なります。

材料特性を左右する主な要素

特性内容選定への影響
チクソトロピー(揺変性)力を加えると粘度が下がり、静置すると元に戻る性質吐出後のダレを防ぐが、高圧が必要になる
フィラー含有セラミック・金属粉などの粒子が混入ノズル詰まり・機器摩耗のリスクが上昇
2液混合型主剤+硬化剤を混合しながら吐出混合比の精度を確保できる機種が必要
熱硬化性・光硬化性熱や光で反応・硬化する材料ポットライフ(可使時間)管理が不可欠
温度依存性温度で粘度が大きく変わるヒーター付きや温度管理機能が必要

こうした特性を整理した上でディスペンサーを選ぶことが、安定した塗布品質への近道です。以下では、代表的な高粘度液を材料タイプ別に見ていきましょう。

材料特性別 高粘度液とディスペンサーの選び方

①シリコーン系材料(RTV・LIMシリコーン)

シリコーン系材料は、低粘度のオイル状から高粘度のペースト状まで粘度域が非常に広く、用途も封止・接着・コーティングとさまざまです。製造現場で使われる主な高粘度シリコーンには次のようなものがあります。

1液型RTVシリコーンは、粘度が数万〜数十万 mPa・sに及ぶものが多く、スクリュー(エンドレスポンプ)方式か高圧プランジャー方式が基本的な選択肢になります。特に、放熱性を高めるためにアルミナやシリカなどのフィラーを配合した放熱シリコーンは、フィラー入り高粘度液として別途考慮が必要です(次項で解説します)。

2液型シリコーンについては、主剤と硬化剤を正確な混合比で吐出できる2液混合型ディスペンサーが必要です。

選定のポイント

②フィラー入り放熱グリース・熱伝導性ペースト

EV(電気自動車)の普及や半導体の高集積化に伴い、放熱グリース・熱伝導性ペーストの需要が急速に拡大しています。これらの材料には、熱伝導率を高めるためのセラミック(アルミナ、窒化ホウ素、酸化亜鉛など)や金属粉(銀、銅)などのフィラーが高充填率で配合されています。

粘度は製品によってさまざまですが、高充填グレードでは100,000〜500,000 mPa・sを超えるものも珍しくありません。さらに、チクソトロピー性が高いものが多く、静置時は非常に固く見えても、せん断をかけると流動性が上がるという特性があります。

このような材料では、フィラーによる摩耗が大きな問題になります。スクリュー(ローター・ステーター)や内部流路がフィラーの研磨作用で削られていくため、摩耗耐性の高い超硬合金・セラミック製の部品を使用した機種を選ぶ必要があります。

また、ナカリキッドコントロール株式会社が公開している放熱剤の塗布に関する技術情報によると、放熱材は製品によって粘度や性状が大きく異なるため、使用する材料に合わせた個別の選定が不可欠とされています。

選定のポイント

③2液混合型エポキシ・シリコーン系接着剤

接着剤の中でも、主剤と硬化剤を混合してはじめて硬化反応が始まる「2液型」は、産業用途で幅広く使われています。高粘度の2液型材料として代表的なものには次があります。

2液型材料の最大の課題は、混合比の精度ポットライフ管理です。主剤と硬化剤が決められた比率(例:10:1や1:1)で混合されないと、硬化不良や強度不足が生じます。また、混合された瞬間から硬化反応が始まるため、配管やノズル内での詰まりを防ぐ設計も重要です。

このような用途には、2液を別々のポンプで計量しながらスタティックミキサーまたはダイナミックミキサーで混合・吐出できる2軸型(2液混合型)ディスペンサーが必要です。こうした2液を精密に計量・混合しながら塗布できるディスペンサーは、主剤と硬化剤の混合比が離れた組み合わせや、粘度差が大きい2液への対応力によって機種が分かれますので、使用する材料の仕様を事前にメーカーへ確認することをおすすめします。

選定のポイント

④ホットメルト系接着剤

ホットメルト接着剤は、常温では固体状または非常に高粘度のペースト状ですが、加熱することで低粘度に近い状態に変化し、塗布後に冷却されて固化するという特性があります。自動車の内装、電子部品の仮固定、包装ラインなど、幅広い分野で使われています。

ホットメルト材料の最大の特徴は「温度依存性の高さ」です。適正な塗布温度(110〜200℃程度)ではスムーズに吐出できますが、温度が下がると急激に粘度が上昇し、最終的には固化してノズルや配管を詰まらせます。そのため、ホットメルト専用のディスペンサーは、タンクから配管・ノズルにいたるすべての接液部に加熱機構を備えているのが基本です。

また、ホットメルト材料の中にはシートや顆粒状のものが多く、メルターと呼ばれる溶解タンクで融解してから供給する構成になっているものもあります。

選定のポイント

⑤シーリング材・コーキング材

シーリング材やコーキング材は、建築分野だけでなく自動車・電子機器の防水・防塵・気密シール用途でも広く使われています。粘度は製品によりますが、多くは数万〜数十万 mPa・sの高粘度域に属します。

これらの材料の特徴は「チクソトロピー性の高さ」にあります。コーキング材は、コーキングガンで押し出す際(せん断がかかる状態)は流動して線状に塗布できますが、塗布後は自重では流れにくく(垂れにくい)という性質を持っています。これはチクソ性によるもので、塗布品質を高める上では好ましい特性ですが、ディスペンサーとしては十分な吐出圧力を出せる機種でなければなりません。

カートリッジ型の製品が多いため、カートリッジをそのままセットして吐出できるプランジャー方式のディスペンサーがよく使われます。ビードの太さ(吐出量)と塗布速度の制御精度が品質のカギになります。

選定のポイント

チクソトロピー(揺変性)への対応策

高粘度液の選定で最も見落とされやすい特性の一つが、チクソトロピー(揺変性)です。改めて確認しておきましょう。

チクソ性とは何か

チクソ性とは、「力(せん断)を加えると粘度が低下し、力を取り除いて静置すると徐々に元の粘度に戻る」という性質です。身近な例では、ケチャップが典型的です。ボトルを振ったり押したりすることで流れ出すようになりますが、静置するとドロドロした状態に戻ります。

工業用高粘度材料では、放熱グリースやシーリング材など、チクソ性が強い材料が多数あります。

チクソ性が高い材料への対応

チクソ性が高い材料をディスペンサーで扱う際、以下の課題が生じやすくなります。

チクソ性の高い材料には、スクリュー方式が特に有効です。スクリューの回転による連続的なせん断作用が液材をほぐし続けるため、吐出量の安定性が高まります。また、プランジャー方式でも「ゆっくり吐出圧力を上げる」制御ができる機種であれば対応しやすくなります。

吐出方式別のチクソ性への対応力まとめ

吐出方式チクソ性への対応力特記事項
エアパルス(時間圧力)方式チクソ性が高い材料は圧力が安定しにくい
プランジャー方式機械式で安定しやすいが、初動の圧力管理が必要
スクリュー方式連続せん断によりチクソ性の高い材料でも安定吐出
高圧プランジャー方式高い吐出圧力でチクソ材料を押し出せるが、初動管理が重要

高粘度液ディスペンサー選定で確認すべき5つのポイント

材料特性の理解に加え、実際に機種を絞り込む際には以下の5点を必ず確認してください。

①最大対応粘度と吐出圧力

仕様書に記載されている「最大対応粘度」は、あくまで目安です。同じ粘度でもチクソ性の有無やフィラーの有無によって実際の吐出しやすさは大きく変わります。最大吐出圧力(MPa)の数値を確認した上で、実際に使用する材料でのテスト吐出(デモ)を依頼することを強くおすすめします。

②フィラー耐性・耐摩耗性

フィラー(特にアルミナ、シリカ、炭化ケイ素など硬度の高い粒子)を含む材料では、接液部品の摩耗速度が格段に上がります。ローター・ステーター・プランジャー・ノズルなどの素材が「超硬合金」「サーメット」「セラミックス」かどうかを確認し、消耗品の交換コストと頻度も見積もりに含めて判断してください。

③2液混合・混合比の精度

2液型材料では、混合比の精度が製品品質に直結します。混合比誤差として「±1%以内」「±3%以内」など仕様に幅があるため、使用する材料のメーカーが推奨する許容範囲と照らし合わせてください。また、混合比の異なる組み合わせ(例:主剤:硬化剤=10:1)に対応できるかどうかも確認が必要です。

④温度管理機能

高粘度材料の多くは温度により粘度が変化します。季節や工場環境の温度変化に左右されないよう、液材タンクや配管にヒーターを設けて一定温度を保つ機能が搭載されているか確認しましょう。特にホットメルトや低温では固化してしまう高粘度材料を扱う場合は、加温機能が不可欠です。

⑤クリーニング・メンテナンス性

高粘度材料は、使用後に内部の配管やノズルに残った液材が固化・硬化しやすく、清掃を怠るとノズル詰まりや機器損傷につながります。分解・洗浄が容易な構造かどうか、自動フラッシング機能があるかどうかも選定の大切なポイントです。特に硬化時間の短い材料を扱う場合は、ライン停止時のパージ(パージ=内部の液材を押し出す洗浄操作)手順を事前にメーカーに確認しておきましょう。

まとめ

高粘度液に使えるディスペンサーの選び方を、材料特性別に解説してきました。要点を振り返ります。

ディスペンサーは一度導入してしまうと、後から「やっぱり合わなかった」と気づいてもすぐには替えられません。材料のサンプルを持ってメーカーに相談し、実機テストを通じて慎重に選定することを強くおすすめします。本記事が適切なディスペンサー選定の一助となれば幸いです。