美容業界に特化した人材紹介の会社で、キャリアアドバイザーをしています。
篠田真希と申します。

この仕事に就く前は、大手のエステティックサロンで7年間エステティシャンとして働いていました。
そのうち3年は店長として、10人ほどのスタッフをまとめる立場にいました。

自分が辞めたときの気まずさも、スタッフに辞められたときの困り方も、どちらも一度ずつ経験しています。

ここ2年ほど、面談で聞く相談の中身が変わってきました。
「前にいた会社に、もう一度戻ることはできないでしょうか」という質問が、明らかに増えています。

以前なら、こうした相談は年に数件あるかどうかでした。
今は月に何件か出てきます。

同じ時期に、企業側からも「退職した人にもう一度声をかけたい」という依頼が届くようになりました。
両側から同じ方向の話が来ているので、これは私の周りだけの現象ではないのだろうと思い、データを調べてみました。

その結果、思っていたのと少し違う姿が見えてきたので、この記事にまとめます。

アルムナイ採用は、昔からある「出戻り」と何が違うのか

アルムナイ(alumni)は、もともと卒業生や同窓生を指す英語です。
人事の世界では「退職者」「元従業員」という意味で使われています。

矢野経済研究所は、アルムナイ採用を「何らかの理由で自社を退職した人(アルムナイ)を再雇用する採用手法」と定義しています。
企業によっては「カムバック採用」「ジョブリターン制度」と呼ぶこともありますが、指しているものは同じです。

ここで多くの方が疑問に思うはずです。
「出戻りなんて昔からあったのでは?」という点です。

その通りだと思います。
私が現場にいた頃も、産休から戻ってきた先輩や、他業界に行って半年で帰ってきた同期がいました。

ただ、当時のそれは制度ではありませんでした。
店長と本人が個人的につながっていて、電話一本で話が決まる。
そういう属人的なやり取りだったのです。

今起きている変化は、この属人的なやり取りを会社の仕組みに置き換えようとする動きです。
退職者の情報をデータとして残し、求人や社内の変化を定期的に届け、応募があれば通常の採用と同じフローで選考する。

言い方を変えると、「たまたま連絡が取れた人だけが戻れる」状態から、「戻りたくなったときに戻る道が見えている」状態へ移そうとしている、ということです。

数字で見ると、増えているのは「制度」であって「人数」ではない

ここが一番お伝えしたい部分です。

矢野経済研究所が2025年1月に公表した調査によると、リファラル採用・アルムナイ採用支援サービスの市場規模は、2022年度の18億5,000万円から2023年度に30億円、2024年度には50億7,000万円に達する見込みとされています。
2年で2.7倍を超える伸びです。

同社は2028年度に300億円まで拡大すると予測しています。

この調査では、全国の民間企業の人事部門で働く834人へのアンケートも行われています。
アルムナイ採用の実施経験があると答えた企業は38.8%でした。
リファラル採用(社員紹介)の50.1%と比べると11.3ポイント低い数字です。

参考:リファラル採用・アルムナイ採用支援サービス市場に関する調査を実施(2025年)|矢野経済研究所

ここまでなら「やはり急増している」という話で終わります。
ですが、別の調査を見ると景色が変わります。

マイナビが2025年の中途採用実績について調べた「中途採用状況調査2026年版」では、アルムナイ採用を利用した企業は22.1%で、21ある採用手法のうち15位でした。
しかも、この手法による1社あたりの平均採用人数は、2023年の1.83人から2024年0.82人、2025年0.61人と下がっています。

一方で、面接を設定してから内定を出すまでの移行率は101.3%と、全手法の平均95.1%を上回っています。

参考:中途採用状況調査2026年版(2025年実績)|マイナビキャリアリサーチLab

この2つを並べると、実態が見えてきます。

制度を整えたり、そのためのツールを導入したりする企業は確かに増えています。
けれど、実際にアルムナイ経由で採用できている人数は、まだそれほど多くありません。

面接まで進めばほぼ決まるのに、そこに至る人数が少ない。
つまり今は、仕組みを作り終えて母集団を貯めている段階なのだと思います。

「アルムナイ採用が急増している」という見出しを見かけたら、増えているのは制度と投資であって、戻った人の数ではない、と読み替えたほうが実像に近いです。

企業がここまで力を入れ始めた3つの理由

では、なぜ各社が仕組みづくりに投資し始めたのでしょうか。
現場で企業の採用担当と話していて、理由は大きく3つに整理できると感じています。

採用にかかるお金が、もう無視できない額になっている

先ほどのマイナビの調査では、1社あたりの年間中途採用費用は609万9,000円でした。
それに対して年間の採用人数は平均12.3人で、過去5年で最も少ない数字です。

単純に割り戻すと、1人採るのに約50万円かかっている計算になります。
これは私が勝手に割った数字なので参考程度に見ていただきたいのですが、それでも感覚とはずれていません。

私たちのような人材紹介を使う場合、手数料は採用した方の年収の30%程度が一般的です。
年収350万円の方を1人採用すれば、100万円を超える費用が発生します。

矢野経済研究所のレポートには、企業側の心理としてこんな一文がありました。
「せっかく採用費を掛けて確保した社員との縁を、退職を理由に切ってしまうのはもったいない」

この感覚が広がったことが、いちばん大きな動機だと思います。

人の出入りが激しい業界ほど、切実さが増す

厚生労働省の「令和6年雇用動向調査」を見ると、エステティックサロンが属する「生活関連サービス業,娯楽業」の離職率は、一般労働者で16.9%でした。
産業全体の平均は11.5%ですから、5.4ポイント高いことになります。

興味深いのは入職率のほうです。
同じ業界の入職率は17.0%で、離職率とほぼ同じ水準です。

出ていく人と入ってくる人が、ほぼ同じ数だけいる。
これは「人がいなくなる業界」ではなく「人が入れ替わり続ける業界」だということを意味します。

参考:令和6年雇用動向調査結果の概況|厚生労働省

入れ替わりが激しいということは、辞めた経験者が業界内にたくさんいるということでもあります。
その人たちに声をかけない手はない、と考える企業が出てくるのは自然な流れでした。

私が受ける相談でも、結婚や出産、配偶者の転勤といったライフイベントで辞めた方が非常に多いです。
仕事が嫌いになって辞めたわけではないので、状況が落ち着けば「またやりたい」と思う方が一定数いらっしゃいます。

技術職なのに、スキルを外から測る物差しがない

これは美容業界に特有の事情です。

エステティシャンには国家資格がありません。
日本エステティック協会などが認定エステティシャンといった民間の資格制度を運営していますが、資格の有無だけで技術力を判断することはできません。

そうなると、採用する側は面接と実技テストで見極めるしかなくなります。
けれど、限られた時間で人の手技を正しく評価するのは、正直に言ってかなり難しいです。

私も何度も採用に立ち会いましたが、実技だけでその人の実力を測りきれたと感じたことはほとんどありません。

ところが元社員なら話が別です。
どんな施術が得意で、どのくらいの指名を持っていて、後輩の面倒をどう見ていたか。
会社の中に評価の記録が残っています。

履歴書に書かれた自己申告ではなく、自社の物差しで測った実績がある。
資格で技術を証明しにくい業界だからこそ、この情報の価値が他業種より高くなるわけです。

仕組みを入れた会社は、実際に何をしているのか

具体例を2つ挙げます。

1つ目は、たかの友梨ビューティクリニックを運営する不二ビューティです。

2025年8月、タレントマネジメントシステム「タレントパレット」を提供するプラスアルファ・コンサルティングが、同社での導入事例を発表しました。
不二ビューティ自身も、2025年10月に採用サイトのニュース欄で同じ内容を告知しています。

発表資料によれば、同社はそれまで従業員の紹介によるカムバック採用を年間数名の規模で行っていたそうです。
そこに退職者の経歴やスキルを一元管理する基盤を入れ、最新の人事制度や求人情報を定期的に届ける形に切り替えました。

面白いのは、戻り方の選択肢を会社側から用意している点です。
正社員としての復帰が難しい人に向けて、時間限定の求人や期間限定の求人といった働き方を提案するとされています。

同社の採用サイトには「一度退職した方の再就職も歓迎しています」という一文が常設されています。
制度の説明ページではなく、職場環境を紹介するページに普通に書かれているところに、姿勢が表れていると感じました。

この取り組みの中身については、たかの友梨の社員として戻る仕組みをまとめた記事が読みやすく整理しています。

2つ目は、リラクゼーションサロンを展開するボディワークホールディングスです。
同社は15年ほど前からカムバック制度を運用しており、年間平均で100名がこの制度で復帰しているとグループの採用サイトで公表しています。

私がこの事例で注目したのは、公表内容の中に「離職前と同じ職位ではありませんが、手技も見直して仕事を再開できます」と明記されている点でした。

戻れます、とだけ言わずに、同じポジションには戻さないとはっきり書いている。
このくらい条件を明示しておくほうが、戻る側にとっても既存スタッフにとっても後腐れがないのだと思います。

戻る側が先に知っておいたほうがいいこと

ここからは、相談を受ける側として毎回お伝えしている内容です。

まず、勤続年数は基本的にリセットされます。

厚生労働省は、年次有給休暇の付与要件である「継続勤務」について、勤務の実態に即して実質的に労働関係が続いているかどうかで判断すると説明しています。
勤続年数を通算する例として挙げられているのは、定年退職者を引き続き嘱託として再採用した場合など、労働関係が途切れていないケースです。

参考:年次有給休暇はどのような場合に、何日与えなければならないのでしょうか?|厚生労働省

数か月から数年のブランクを空けて戻る一般的な出戻りは、これに当てはまりません。
有給は再入社から6か月後に10日、というスタート地点に戻ると考えておくのが現実的です。

役職や給与も同じです。
前と同じ条件で戻れると期待して面談に来られる方がいますが、ボディワークホールディングスが明示しているように、職位が下がることはよくあります。

次に、言い出し方についてです。

エン・ジャパンが2024年に4,353人を対象に行った調査では、出戻り転職を経験した人は9%でした。
そして出戻りのきっかけとして最も多かったのは「在籍時の上司に誘われた」で、35%を占めています。

自分から頭を下げて頼み込むケースより、向こうから声がかかるケースのほうが多いということです。

そう考えると、辞めるときの振る舞いがそのまま将来の選択肢につながります。
引き継ぎをきちんと終える、辞める理由を感情的にぶつけない、辞めた後も何人かとは連絡を取れる状態にしておく。

こうしたことが、数年後の自分の選択肢を残すことになります。

最後に、心理的な部分です。

「出戻りって恥ずかしくないですか」と聞かれることが本当に多いです。
検索されているキーワードを見ても、戻り方そのものより「恥ずかしい」「ダサい」といった気持ちの言葉のほうがよく調べられています。

矢野経済研究所のレポートにも、日本では「辞めた人は裏切り者である」という考え方からアルムナイ採用に抵抗のある企業が多い、という指摘がありました。
その空気は確かに存在します。

ただ、実際に現場で見ている限り、戻ってきた方が肩身の狭い思いをしている場面にはあまり出会いません。
人が入れ替わり続ける業界なので、数年経つとメンバーの顔ぶれ自体が変わっているからです。

気にしているのは、たいてい本人だけでした。

まとめ

アルムナイ採用について、調べて分かったことを整理します。

私がこの動きを前向きに見ている理由は一つです。

これまで「辞めたら終わり」だった関係に、続きが用意されるようになったからです。
結婚や出産で一度離れた人が、そのまま業界から消えてしまうのは、本人にとっても業界にとっても損失でした。

戻る道があると分かっていれば、辞めるという決断も少し軽くなります。
それは今この瞬間に働いている人にとっての安心材料でもあると思うのです。